2018年12月、改正貨物自動車運送事業法が公布されました。
その中で話題になったのが、「標準的な運賃」の導入です。
なぜそこまで話題になったのでしょうか。
今回は、2018年12月に公布された「改正貨物自動車運送事業法」の「標準的な運賃」についてご紹介します。
目次
「標準的な運賃」とは
「標準的な運賃」とは、運送事業における労働条件の改善や、事業の健全な運営のために、運送事業者側が「標準的な運賃」をもとにした運賃を提示し、荷主から適正な金額の運賃を受け取れるようにしたものです。
従来の貨物自動車運送事業法では、多くのトラック運送事業者が荷主よりも弱い立場に置かれており、事業運営に必要な費用も満足に受け取ることができない状況でした。
結果として、「まっとうに法令を順守しながらの事業の運営ができない」ことにより「法令違反をしてしまう体質」ができあがっていました。
このような状況を改善するため、国土交通大臣が「標準的な運賃」の告示を行い、事業者が荷主から適正な金額の運賃を受け取れるようにしたのです。
「標準的な運賃」は、適切な運賃が収受できていない事業者の水準に設定しても意味がないことから、国土交通大臣は「高い水準」を目指すと発表しています。
運賃タリフから「標準的な運賃」に
従来、運賃の基準価格を決めていたのは「運賃タリフ」と呼ばれるものでした。
タリフとは、いわゆる料金表のことですので、運賃タリフとは、トラック運送の運賃を表にまとめたものです。
しかし、運賃タリフは最も新しいもので平成11年(つまり西暦1999年)に公示されたものです(平成15年に運賃の金額が各事業者からの届け出制となったことにより、制度としての運賃タリフは平成11年以降存在しません)。
また、事業者によっては、それ以前の平成9年、平成6年、平成2年、そして昭和60年までのタリフを元にしているケースもあります。
世界最大の通販サイト「Amazon」が日本に進出したのが、平成12年(西暦2000年)11月であり、ネット通販が一般に普及し始めるのは更に先の話でした。
現在、ネット通販が広く普及し、トラックによる個人宅への配達業務が圧倒的に増加して、それらの需要に合わせた新たなサービスが登場しているにもかかわらず、従来の運賃タリフをもとに運賃が決められていると、健全に事業を続けることが難しくなってしまいます。
そこで、「標準的な運賃」を定めることによって、運送事業者が従来の運賃タリフから切り替えられる(切り替えやすい)状況ができあがります。
今回の「標準的な運賃」は、従来の運賃タリフから20年ぶりに更新される、新たな「運賃の基準」ということもできます。
この「標準的な運賃」は、平成35年度末までの期間限定の措置として導入される予定です。
「標準的な運賃」導入の効果
「標準的な運賃」が制度として決まることによって、運賃によるコストの問題を抱えている事業者の中からは、「これでやっと運賃が安定する」といった喜びも声も上がっています。
2017年4月にヤマト運輸が運賃の値上げを行って以降、運賃の値上げ交渉を行うトラック運送事業者も増えてきました。
このような状況を鑑みると、荷主から適正な金額の運賃を獲得できる環境は、少しずつではあるものの整ってきているといえるでしょう。
今後の課題
一方で課題もあります。
国土交通省の貨物課では、今回の改正で定める「標準的な運賃」は、あくまでも運送事業者と荷主との運賃を決定する交渉のための「参考材料」だとしています。
つまり、「このくらいの金額が妥当」ということを言っているだけで、交渉の際に強制力を持つわけではありません。
そのため、依然として荷主に対して運送事業者の立場が弱いと感じたり、「他社に比べて安いですよ」と価格勝負に出る運送事業者によって、結局安い運賃で動かなければならないままではないかと感じている事業者もあり、これらは今後解決していかなければならない課題の1つとなっています。
ただし、国土交通大臣が正式に公表する「告示」なので、「政府のお墨付き」であることは間違いなく、今後のトラック運送における運賃の基準になっていくことでしょう。
今後の展開は?
今後は、運送事業者の決算の時期などに合わせ、全国の運送事業者から運賃や荷物などのデータを収集・分析していく予定です。
実際に施行されるのは「公布された日から2年以内」なので、公布後2年間で、具体的な金額や基準を適用する方法などを決めていきます。
いかがでしたでしょうか。
今回は、2018年12月に改正された貨物自動車運送事業法の中の、「標準的な運賃」が定められるという点についてご紹介しました。
このサイトでも取り上げている荷主との交渉の際に起きる、運賃問題の解決の糸口になっていくことを願っています。